聲明の音律も西洋音楽と同じように、1オクターブ12音で構成されます。 ただし、この12音は平均律によって算出されるものではないようです。 詳しくは中田さんの 雅楽の音律のページをご覧ください。 聲明も雅楽も音律は同じはずです。
洋楽の12音に、CDEFG...と名前がつけられているのと同じように、 聲明(邦楽)の12音にも名前がつけられています。 その名前を列挙すれば、
壱越、断金、平調、勝絶、下無、双調、 鳧鐘、黄鐘、鸞鏡、盤渉、神仙、上無ということになります。 音律に関する知識は中国から入ってきているので、 このような漢字の名前がつけられているのですね。
この12音を西洋の12音に対応させれば、
壱越=D(レ)、断金=D#(レ#)、平調=E(ミ)
...(中略)...黄鐘=A(ラ)...(中略)...上無=C#(ド#)
になります。
ただし邦楽の場合、伝統的に黄鐘(A)=430Hzで調律しているので、 洋楽の12音(A=440Hz)よりも、全体的に少し低めです。
洋楽にハ長調(C)やニ短調(Dm)などの調子や旋法があるのと同じように、 聲明でも調子があります。
旋法としては律(りつ)と呂(りょ)の2つが定義されています。
律の旋法 | 呂の旋法 |
---|---|
上の図は、壱越調の場合の律と呂の旋法を五線譜に表したものです。 このように宮(第1音)と角(第3音)との差が、 完全4度(半音5つ分)であるものを律、 長3度(半音4つ分)であるものを呂というのです。
また、上の図のように第1音が壱越(D)の音で 始まる調子を壱越調といいます。 同様に第1音が双調(G)で始まるものを双調といいます。
理論的には、12音のそれぞれに律と呂の旋法があり、 全体では24の調子があるはずですが、 真言宗の聲明では伝統的に次の5つの調子を使用することになっています。
ですから、上記の左側の五線譜の調子(壱越調の律)は、 真言宗では用いないことになっていることをお断りしておきます。
なお、十二律と五音、五調子の関係の表 を作りましたのでご覧ください。
ここで、聲明の譜面の ページの不動讃の譜をご覧ください。 タイトルの下に「壱越反音」と書いてありますね。 これは壱越調であることは間違いないのですが、 律とも呂とも書いておらず、「反音(へんのん)」と書いてあるのです。
実は、これは曲の途中で旋法が変わることを示しております。 つまり最初は壱越調の呂で始まるのですが、 曲の途中で律に変わったり、呂に戻ったりすることを「反音」というのです。 ともかく、不動讃の場合、最初の音は壱越調の呂の商の音ですから、 絶対音としては平調(E)の音で始まります。