上の図は文栄7年(1270年)頃、 覚意という僧侶の考案した「十五折博士」です。 文字の回りにある丸印に棒のついた記号を博士(はかせ)といい、 棒の角度によってそれぞれの音の高さを表します。
聲明の世界では1オクターブを「重」と表現します。 一番低いオクターブを「初重(しょじゅう)」、 その上のオクターブを「二重(にじゅう)」、 さらにその上を「三重(さんじゅう)」と呼びます。 したがって、初重の第一番目(宮)の音と二重の第一番目の音は ちょうど1オクターブの差 の音になります。
そして1オクターブ内には、基本的には5つの音があります。 その5つに、それぞれ低い音から宮(きゅう)商(しょう)角(かく)徴(ち)羽(う) という名前がつけられています。この宮・商・角・徴・羽という名は、 一般の音楽でいうところの「階名」であり、 したがって絶対音を示すものではありません。
なお、上の図の博士のうち、白抜きになっているものは、 「有位無声」であることを示します。 また黒で塗りつぶした博士は「有位有声」ということになっています。
私の思うところによりますと、 「有位無声」とは「曲中でほとんど使われることのない音」 あるいは「高すぎるかまたは低すぎるので、曲中で使うには好ましくない高さの音」で、 「有位有声」とは「曲中で使われる音」あるいは「曲中で使うのに好ましい高さの音」 ということであると考えております。